2014年04月22日

カントール、カンタータ、カントライ

カントールハウスのトップページに書いていますが、「カントール」は「歌わせる者」の意。無理矢理翻訳のようなぎこちなさが残りますが、的確な訳と自分でも思っています。今日「カントール」は「教会音楽家」とほぼ同義に理解されますが、元々は本来の意味通り「歌わせる者」すなわち「先唱者」「合唱長」のことであり「オルガニスト」とは別の役割・職務でした。

バッハの時代の礼拝の記録に「ムジーク(音楽)」とか「シュトゥック(曲)」などと表記されていたのは、後に「カンタータ」と呼ばれるようになった楽曲。今度は「歌われる曲」ということになります。

「カントール」も「カンタータ」も語源はイタリア語の「カント(歌う)」「カンターレ(歌うこと)」。「カンタービレ(歌うように)」が一番馴染み深い音楽用語でしょうか。

もう一つの擬似語「カントライ」について。これは「合唱」のことになり、辞典をひくと「教会合唱団」とか「聖歌隊」と出てくるのですが、「教会合唱団」はドイツ語では文字通り「キルヒェンコーア(Kirchen=教会の、Chor=合唱団)」という語です。私がドイツ時代に非常勤カントールとして指導した教会合唱団(聖歌隊)も「キルヒェンコーア」でした。実際ドイツにいた当時、教会合唱団で「キルヒェンコーア」ではなく「カントライ」をと名乗っている合唱団は多くはなかったと記憶します。合唱団の規模で使い分けているという訳でもないようで、私の大学の同僚で教会音楽大学在学中に、私と同じように非常勤カントールを別の町で勤めていたドイツ人の友人は、自分の教会合唱団を「カントライ」と命名していました。大学の同僚の間では、ちょっと「え、そうなの?」と言う空気で話題になったこともありましたっけ。

どこがどう「え、そうなの?」なのかと言うと、それはその街全体の中での複数の合唱団間の関係性に関わることだからなのです。どういうことかと言うと、私は南西ドイツの経済都市であるシュツッツガルト市東隣の エスリンゲン市と言うところに住んでいたのですが、市中のプロテスタント25教会の全てに付属合唱団がありましたが、「カントライ」という名を冠していたのは、市中心のセントラルチャーチである聖ディオニス市教会の合唱団だけだったのです。

私は市の南側丘の上のツォルベルク教会でカントールを勤め、その教会の「教会合唱団」を指導していましたが、私の合唱団のメンバーの何人かは聖ディオニス市教会の「カントライ」のメンバーでもありました。「カントライ」にはそのように市中の小さな合唱団のメンバーが、並行してメンバーとして加わり、より大きなプロジェクトや音楽礼拝またオラトリオコンサートなどをしていました。普段はそれぞれの合唱団で小曲を中心に取り組み、大きなオラトリオなどは「カントライ」で取り組み演奏する。市内各地からの合唱団員が縦横に関わり合い、演奏活動・取り組みは町全体で共有し、カントライ団員を通して市中個々の合唱団活動にも還元していくと、いうようなネットワーク的な関係性があったのです。

そのような意味合いから、「カントライ」の命名は個々の合唱団ではなくセントラルチャーチの合唱団に使われることが多かったのだと思います。私はこういう結集・還元の関係性は、音楽活動を共有しそれを育て関わっていくのに良い関係だなぁ、とずっと思っていました。

2009年に始まった桜美林大学のオラトリオプロジェクトが、6年目の今年、学外の大ホールでのコンサートに向けて始動することとなり、合唱団としてのアイデンティティーと更なる一体性を確認できるよう合唱団名称について慎重に検討してきました。いくつか紆余曲折(桜美林の“桜”を漢字で入れてみたり・・・)の末オベリンナー・カントライと命名されることとなりました。「桜美林人による宗教曲合唱団」の意味になりますが、単に桜美林大学に結集する合唱団と言うだけではなく、その取り組むを教育に還元し地域の文化振興に貢献していくというビジョンが込められています。

最後に「カントライ」の語源的意味について。歴史的には「カントライ」という概念は、合唱、聖歌隊だけでなく器楽アンサンブルも含んでいたようです。バッハの時代からその後の時代まで「合唱」と言うのはせいぜいパート2,3名の「重唱団」でしたから、規模云々を言い表している訳ではやはりありませんでした。語源的には「カントライ」を他の合唱を表す概念と区別しているのは、「カント−ルが主宰する音楽共同体」という意味合いです。その意味で宗教曲を扱うということも結果的表されています。

とにもかくにもカントール、カンタータ、カントライ、どれも「歌」から発することなのです。

良き「歌」を歌い、捧げていきたいと願わされます。

かんとーる@うえき
posted by かんとーる@うえき at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感